以前に新しいギターを買うまでの騒動となった「3弦だけチューニングが合わない怪事件」。あれから2年・・また同じ状況に遭遇しました。今回は2回目なので少し冷静に観察して、事件を推理してみたいと思います。
前回の詳細については「3弦だけチューニングが合わない怪事件」としてブログに書きました。
ギターの弦を交換した時に、何故か3弦だけオクターブチューニングが合わなくなり、ハイポジションに行くほど音が高く上ずった感じになってしまうという、奇妙なことになってしまっていました。
ギターのセッティングや弦のゲージは全く変えていないので、弦自体の問題だということまでは間違いなさそうなのですが、そこから先は謎のまま迷宮入りとなっていた事件・・。
今回、およそ2年の時を経て再発したので、少し深掘りしてみたいと思います。
事件の状況
問題になっている弦は、コーティング弦が有名なメーカーのものです。
アコギ弦でゲージは012~053、3弦は024です。
薄くコーティングされており、プレイアビリティはそのままにコーティングなしのものよりもかなり寿命が長い弦になっています。
この事件の奇妙な所は、3弦のみがおかしくなるものの、他の弦は全く問題がないという点です。
3弦だけに起こる現象は次のようなものです。
- オクターブチューニングが合わない
- ハイポジションに行くほど音が通常より高くなる
- 強く弾くと開放弦がビビる
- 弦のテンションが高く(強く)感じる
- 弦交換をしようと緩めたら切れることがある
これらの手がかりをもとに、何とか事件を推理してみます。
科学捜査?
おかしい3弦は見た目的には特に正常な3弦と変わりません。
明らかに汚れているとか、太さが違うとかなら分かりやすかったんですが・・。
なのでこちらも目に見えない所からアプローチをしてみようと思います。
いきなりですが、下式は弦の固有振動数を表したものです。
求めているfnが周波数[Hz]、l(エル)は弦の長さ[m]、Sは張力[N]、ρは線密度[kg/m]です。
nはひとまず1としておいてもらえればOKです(2以上のnは倍音になります)。
何やらややこしそうですが、言いたいことはρ(線密度)が鍵になってそうだということです。
1つ1つをつぶしていくと、まずfn(周波数)はチューナーでGの音に合わせているので、3弦がおかしいときも正常な時も同じ値になります。
l(弦の長さ)も同じギターでセッティングを変えていないので同じはず。
S(張力)は弦を引っ張る力で、おかしい3弦を張った時と正常な3弦を張った時で異なるかもしれませんが、弦のどの位置でも同じ値になるはずです(ハイポジションだけ張力が強いとかはない)。
・・ということはρ(線密度)が怪しいのでは?という訳です!
線密度とは、1メートルあたりの弦の質量です。
ここでは単純に重さと考えても良いと思います。
3弦がおかしい時の現象である「1.オクターブチューニングが合わない」と「2.ハイポジションに行くほど音が通常より高くなる」は、弦の重さにバラつきがあると考えたら辻褄が合わないでしょうか?
重さにバラツつきがあるとは、一部だけ芯線が細くなってしまっているとか、一部の材料に不純物がまじっていて重さが変わってしまっている・・とかですね。
今回はハイポジションに行くほど音が通常より高くなるので、弦のブリッジ側(ボールエンド側)でρ(線密度)が小さくなっているか、ナット側でρが大きくなっているかになります。
これは、弦の固有振動数の式で周波数fnが線密度ρに反比例していることによります。
弦を製造する過程で何らかの問題が起こり、正しい音程が出せる精度の弦にならなかったのかもしれません。
製造したすべての弦をギターに張ってテストしてから出荷するのは不可能なので、例えば1000本に1本とかの確率で発生しても不思議ではない気がするのですが、どうでしょうか。。
「3.強く弾くと開放弦がビビる」という現象は弦の精度が悪いために、振動のバランスが崩れているのかもしれません。
「4.弦のテンションが高く(強く)感じる」のは、もしかしたらローポジションでρ(線密度)が増加している影響でS(張力)も増やさないといけなくなったからでしょうか。
これは開放弦で同じ周波数fn(Gの音)を出すには、ρ(線密度)が増えたらS(張力)も増やさないといけないためです。
ただこれは計測したわけではなく左手で押えた時に何となくS(張力)が大きく感じただけなので、もしかしたら気のせいかもしれません・・。
「5.弦交換をしようと緩めたら切れることがある」という現象は弦の材料の不均一性を少し裏付けている気がします。
芯線がわずかに細くなっている部分があったり材料が不均一な部分があると、そこが破断の起点となり切れてしまう可能性があるためです。
しかしこれも、おかしな3弦を調べるために弦を緩めたりもとのG音に戻したりを繰り返したことによる疲労から発生しているかもしれず、真相は分かりません。
それにしても新品の弦がその日の内に切れるのは早すぎる気がしますが・・。
なぜ3弦だけで起こるのか?
今回の事件はアコギ用の3弦で発生しています。
アコギ用の3弦なので、プレーン弦ではなく芯線の周りに巻線があるワウンド弦です。
つまり3弦は「巻弦の中でもっとも芯線が細い弦」ことになります。
これが関係しているのではないでしょうか?
芯線が細いということは、製造時のわずかなブレの影響が出やすい可能性があります。
例えば太い6弦では問題にならないような精度差が、細い3弦では如実に効いてくるような感じでしょうか・・。
また、もしかしたら芯線は太い方から製造される(太い材料を伸ばして細くしていく)ので、精度不足の製品ができる確率が上がるという、工程上の問題もあるかもしれません。
巻弦なので見た目上は特に問題がないように見えても、芯線と巻線の間にスキマがあるようなことも考えられます。
ちなみに下の写真は今回のおかしな3弦の破断箇所から、巻線を取ってみた時のものです。
だいたい1弦と同じくらいの太さの芯線が使われているようです。
巻線を取る時に白い粉末のようなものがわずかに出てきたのですが、これがコーティングの成分だと思われます。
このコーティング成分は思ったよりも少量だったので、今回の事件の直接的な原因ではないように感じました。
まとめ
以上のことから今回は次のような結論にしたいと思います。
構造上および製造上の理由で、3弦は精度不足の製品ができやすい。
そして、たまたまその精度不足の製品を引いてしまったために起こった事件である。
自分の弦の保管方法や弦交換の方法などに問題があるかもしれないのに、弦の側に責任を押し付けるようで申し訳ないですが・・。
このメーカーの弦は非常に気に入っていて、事件が起こっても愛用し続けているので勘弁して下さい!
また、今回は【推理編】としてますが私が勝手に推理しただけで答えはまだ出ていないので、【解決編】はありません。。
弦メーカーの方や金属の加工に詳しい方などで知見がありましたらぜひ教えて頂きたいです。
今回の推理結果だと、弦のユーザー側は有効な対策を取ることができません。
精度不足の弦を避けて購入することは不可能なので・・。
できるとしたら、3弦の予備を用意しておくことくらいでしょうか。
今回問題になっている3弦のバラ弦を調べたら、1本600円とセット弦の半額くらいの価格になっていました。
かなり高いですね・・。
1弦であれば、製造コストが低いのもあると思いますが、切れやすい弦なので比較的大量に安く出回っているようです。
3弦という所でまた悩ましい問題が発生してしまいましたが・・今回はこの辺りで締めたいと思います。
正解のない推論を長々と読んで頂きありがとうございました。
今後また続報があればブログに綴りたいと思います!
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