普段、アコギでソロギタースタイルの演奏をすることが多いのですが、「どうしてエレキギターで弾かないんですか?」と聞かれたことがあります。確かに、エレキギターの方が色んな音色を出せますし、アコギより軽いタッチで弾けるなど、メリットは多そうですが・・。今回は、エレキでソロギターをやらない理由を、考えてみたいと思います。
私も、特にギターの種類にこだわらず、ソリッドボディの(内部に空洞がない)ギターを使って、ソロギターをやっていたことがあります。
エレキギターもアコースティックギターも同じギターなので、どちらでもソロギター的なアプローチは可能なはずですよね。。
しかし、いつしかアコギでしかソロギターをやらなくなっていきました。
結果的には、アコギの方がソロギターに適していると判断したことになりそうですが、具体的にどんな点が影響しているのでしょうか?
その辺りをはっきりさせることで、逆にエレキギターを使ったソロギターの可能性も見えてくるかもしれません。
以降、ソロギター(フィンガーピッキング)の歴史的な面と、奏法的な面の2つの側面から、考察してみたいと思います。
歴史的な面
「歴史的」と書くと大層な感じがしますが・・私はギターやギタープレイヤーの歴史にめちゃくちゃ詳しいわけではありません。
なので、ざっくりとした内容になってしまうこと、ご了承下さい。。
まず、伝統的なソロギターとも言えるクラシックギターを考えて見ると、エレキを使っている人はいません。
クラシックギターは、エレキ(というか電子楽器?)がない頃から脈々と続いているので、当然と言えば当然ですね。
コンサートは生音やマイク集音で行なわれ、それだけで十分な音量を得るために、クラシックギターのボディーが現在のような形状になったのだと推測できます。
この時点では、エレキを使う選択肢自体がありません。
エレキギターが発明されると、アンサンブルの中でのギターの役割が飛躍的に大きくなります。
それまでは伴奏楽器としてしか居場所がありませんでしたが、音量を得たことでメロディー楽器として活躍の場が与えられたんです!
音色を電気的に変化させるエフェクトも様々なものが開発され、メロディー(リードパート)以外でも、楽曲に様々な味付けをすることができるようになりました。
エレキ黎明期のフィンガーピッカーとして思い浮かぶのが、マール・トラヴィスやチェット・アトキンスといった、カントリー界のギタリストです。
両者ともに、サムピックを使用した指弾きのプレイヤーで、ギャロッピング奏法や3フィンガーロールなど、指弾きならではの奏法を発展させた立役者です。
どちらもエレキギターをメインで使用しているのですが、エレキと言っても箱もののギターなので、音色のふくよかさといった意味では、アコギに近いかもしれません。
この頃の楽曲のアレンジは、ソロギターだけで終わるようなものは少ない印象があります。
曲の始めはギターだけでも、後でバンドやオーケストラが入ってきて、盛り上げるパターンが多いです。
盛り上がってきた状態では、ギターはメロディーを弾くことに注力する感じですね。
なので、ソロとアンサンブルの両方で使いやすい、箱もののエレキギターが重宝されたのかもしれません。
その後のエポックメイキングな出来事として思い当たるのは、マイケル・ヘッジスの登場です。
アコギへのピックアップシステムの導入や、タッピングやボディーヒットなどの特殊奏法の使用、楽曲のオリジナリティ、立って演奏する見た目のスタイリッシュさ等、従来の常識を変えたギタリストですね。
それまでも、ピエゾピックアップ(ブリッジサドルの下に仕込まれた、圧力を電気信号に変えるピックアップ)を率先して使っていたギタリストはいましたが、いかにもピエゾ臭いという感じでした・・(それはそれで好きですが)。
その点、マイケル・ヘッジスは、2つのピックアップからの出力をブレンドする手法で、アコギの音作りに革命をもたらしました(最初に考えたのは違う人かもしれませんが)。
演奏形態としても、アンサンブルではなくギター1本で、たまに他の楽器が少し絡むくらいなことが多いです。
なので、ハウリングや音の住み分けにナーバスにならずに、アコギを使えたんだと思います。
マイケル・ヘッジス以降、最初は高価だったピックアップシステムも、徐々に手が届くような価格帯になり、品質も向上していきます。
今では、後付けではなく最初から2系統以上のピックアップを搭載したギターも販売されていますね(MatonやCole Clarkなど)。
こうなってくると、「ソロギターをやるならアコギでええやん」となるのは、自然の理(ことわり)です・・。
ソロギターはアコギ(クラシックギター)から始まり、少しエレキに移った後、ハードウェアの進歩で再びアコギに戻ってきたという感じでしょうか。
その中でのギターの使われ方(楽曲やアレンジ)を振り返ると、ソロギターだけでなくバンドアンサンブルも両立したい場合(マール・トラヴィスやチェットアトキンスの頃のようなスタイル)は、エレキギターを使う選択肢も十分に残っていると言えそうです。
奏法的な面
今度はギターの奏法的な面から、エレキでソロギターをやらない理由を考えてみます。
エレキでソロギター的なアプローチをするとまず困るのが、パーカッシブな音が出せないということです。
弦に右手の指を軽くぶつけて、チャッという音を出す奏法(ストリングヒット)はエレキでもできます。
しかし、ギターのボディを叩いてドラムやカホンなどの打楽器っぽい音を出すことは、アコギでしかできません(エレキのピックアップは弦振動しか拾ってくれません)。
ソロギターは、ギター1本で音楽のすべての要素を表現しないといけないので、この奏法(ボディーヒット)を使えるかどうかは、かなり重要になってきます。
後は、エレキは手の動きだけでコントロールできる音色の幅が狭い、ということも関係してそうです。
もともとアコギはエレキより音のレンジが広い(同じ音程でもエレキよりもたくさんの周波数成分が含まれている)という感覚があります(実際に計測して波形を見たわけではありませんが・・)。
なので、ピッキングの強弱やタッチ、位置を変えるなどの手の動きだけで、様々な音色を出すことが可能です。
エレキでも同じように音色を変化させられますが、アコギよりも変化の幅が少なく、どちらかというと、手の動きよりも電気的に(ピックアップセレクターやボリュームノブなどで)コントロールするのが定石です。
スイッチをいじるには、多くの場合、右手を一度弦から離す必要がありますね・・。
その間は(レガートなどで左手で音を出していない限り)、次の音を出すことができないので、他の楽器のフォローがないソロギターでは、中々辛い状況になります。
奏法的にも音色的にも、エレキは他の楽器、特にドラムやベースと合わさって、初めて音楽的に完成するイメージです。
しかし、これらの奏法面に関しては、足元にエフェクターを用意したり、ループやカラオケを有効に使うことで、解決できる部分も多そうです。
エレキの方が音のレンジが狭いということは、逆にエフェクトの乗りが良いというメリットにもなりますし。。
今後は、エレキを使ったソロギターが(ループやカラオケを使うスタイルがソロギターと言えるかは別にして)、増えてくるのではないかと思います。
そういえば、ギター自体がエレキとアコギのハイブリッドのようになっているものも、最近出始めてますね。
画像はACOUSTASONIC(Fenderのホームページより)
今は奇をてらったようにも見えますが、将来こんな感じのギターが主流になるかもしれません・・。
ソロギターはアコギでやるもんだという固定概念にとらわれず、常に新しい可能性を追及していきたいですね。
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