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彼を知り己を知れば百戦あやうからず(チューニング編)

ギターのチューニングは事あるごとに狂うので、合わせ直す余裕がない時に焦った経験をした人も多いと思います。しかし、どんな時にどう狂うかが予想できていれば、ある程度余裕を持った対応ができるのではないでしょうか。今回は、百戦(演奏本番などの大事な場面)に余裕を持って臨むために、ギターを取り巻く状況とチューニングの関係を考えてみたいと思います。

いきなり免責事項で申し訳ないのですが、ナイロン弦やトレモロユニットについては除外して話を進めたいと思っています。

 

どちらもチューニングに関わる独自の要素があると思うのですが、私自身があまりこれらを使ったギターを弾いてこなかったのもあり、大した知見がありません。。

 

どこかから持ってきた借り物の情報をコピペするよりは、自分がずっと関わって来たスティール弦でトレモロユニットがない場合に限って、書いた方が良いと判断した次第です。

 

 

 

さて、今回の「彼を知り己を知る」項目は全部で3つです。

 

どれも言われてみれば当たり前のことですが、感覚的にではなくきちんと頭で整理しておくと、いざという時にきっと役に立つはずです。

 

それでは、順番に見て行ってみましょう。

温度の変化を知る

 

どれだけギターを正確にチューニングしても、気温や室温が変わると音が狂ってしまいます。

 

良く起こるシチュエーションなので、温度変化による狂いを実感している人も多いのではないでしょうか。

 

例えば、「今日は昨日より冷えるな~」と思ってギターの練習を始めたら、昨日よりも音が高くなっているとか、クーラーがきいていない蒸し暑いスタジオに入ったら、ギターのチューニングがやたら下がってるとか、そういう類のやつです。

 

 

 

これは弦の熱膨張or熱収縮が原因だと考えられます。

 

物体の温度が上がると膨張する(伸びる)、温度が下がると収縮する(縮む)という性質ですが、身近な所では電車の線路にその影響を見ることができます。

 

レールの繋ぎ目にはスキマがあり、それが原因で電車が一定距離走るごとに、ガタンゴトンという音が出ます。

 

何故あえてスキマを設けているかというと、暑い夏場にはレールが長手方向(電車の走る方向)に膨張するので、それを逃すあそびを考慮しているためですね(ないとレールがゆがんでしまって電車が走れません)。

 

ギターだと、チューニングした時よりも弦の温度が高くなれば、弦が伸びて音程が下がり、逆にチューニングした時よりも弦の温度が低くなれば、弦が縮んで音程が上がることになります。

 

ここから少しだけ数式が出てくるので、苦手な方は流し読みして頂いて大丈夫です。

 

温度変化ΔT(デルタティー)に伴う物体のひずみε(イプシロン)は

と表せます(Wikipedia"熱膨張率"より)。

 

ここで、α(アルファ)は熱膨張率です。

 

熱膨張率は温度変化による伸びやすさを表す係数で、物質ごとに違います。

 

 

 

ひずみのεは聞き慣れないかもしれませんが、単純にもとの長さ(L)と伸びた量(ΔL)の比です。

例えば1[m]のものが1[cm](=0.01[m])伸びたとすると、ひずみεは0.01/1=0.01となります。

 

0.01に100をかけてパーセンテージにすると、もとの長さの1[%]伸びたということになり、より分かりやすいと思います。

 

 

 

では、温度変化と伸びる量の関係を考えます。

 

ここまでに出てきた2つの式はどちらもひずみεなので、

と表せます。

 

両辺にLを掛けると

となり、伸びる量ΔLは、もとの長さLと熱膨張率α、温度変化ΔTの積で表されることが分かりました。

 

 

 

ここで、具体的に値を当てはめて計算してみたいと思います。

 

・もとの長さL:648[mm] 【レギュラースケールの弦長】

・熱膨張率α:1×10^(-5)[/℃] 【10のマイナス5乗。金属が大体これくらいの熱膨張率です】

・温度変化ΔT:10[℃] 【真夏にクーラーがガンガンきいた所から外に出るイメージ】

 

これらの値を代入すると、

 

ΔL=648×1×10^(-5)×10 = 0.0648

 

0.0648[mm]伸びることが分かりました。

 

 

 

思ったよりも小さい値ですが、本当にこれでチューニングが変わるんでしょうか・・?

 

伸びる量だけを見るとそう思いますが、この伸び量がペグをどれくらい回した時に相当するか概算すると、何と15度くらいになります。

 

ペグがそれだけ回っているのに等しい変化が起こっていると思うと、温度変化は侮れません・・。

 

(概算方法の詳細が知りたい方はブログ"演奏前に必ずする作業「チューニング」の話"をご覧下さい)

 

実際は気温の変化だけでなく、プレイヤー自身の体温も関係してると思います。

 

例えば、沢山のスポットライトがあたるステージ上で弾いていると、体が熱くなってきますよね。

 

その熱が弦に伝わって、弦の温度が上がるはずです(もちろん、スポットライトの熱が直接弦にも伝わっていると思いますが)。

 

なので、弾いている自分自身がどのような状態かも、意識しておくと良さそうです。

 

 

 

ここまでダラダラ書いてきましたが、ポイントは温度の絶対値ではなく、温度の変化でチューニングが狂うということです(式のΔTは「温度変化」であって「温度」ではありませんでした)。

 

従って、例えば蒸し暑い練習スタジオでも、そこできちんとチューニングすれば、熱膨張による狂いは起こりません。

 

逆に、途中からクーラーをガンガンかけて室温を下げると、温度変化が起こってチューニングが狂ってしまいます。

 

 

 

どうしても過ごしやすさを重視して室温を管理すると思うので、チューニングはそれに翻弄されがちになりますね。

 

しかし、チューニングが狂うにしても、音が高くなるのか、低くなるのか、その量はどの程度かを把握しているだけで、対応スピードが大きく変わってくるはずです。

プレイ内容を知る

 

弦は温度変化だけでなく、荷重が掛かった時にも伸びが生じて音程が変わります。

 

これは、強く弾いたときや弦を強く引っ張った時を考えると分かりやすいと思います。

 

アコギを激しくストロークしたり、エレキでチョーキングしたりすると、チューニングがよく狂いますよね。

 

 

 

どれくらい狂うかを予想するのは難しいですが、自分がどのように弾くかは分かっているはずです。

 

と言うことは、チューニングが狂う可能性が高い曲なのかそうでないかを、事前に把握しておけます。

 

さらに温度変化の時と違って、荷重が掛かった場合は基本的には音が低くなる方に狂います。

 

正しいチューニングに戻すには、音が高くなる方向にペグを回せば良いということも事前情報として分かりますね。

 

 

 

これを応用すると、音を聴かずに応急処置的にチューニングをすることができます。

 

例えば、演奏中にチョーキングを多用した弦のチューニングが狂っていると感じたとします。

 

演奏中なので音を聴き比べたりチューナーを使ってチューニングすることはできません。

 

しかし、音を高くすると良いのは分かっているので、一瞬のスキをみて音が上がる方にペグを回して、少しでも合っている方向に戻すという感じです。

 

 

 

著名なギタリストも、ライブ映像を見てたらたまにやってるのを見るので、同じ状況になったらマネしてみるのも良いかもしれません。

 

彼らは感覚的にペグを回していて、私達は理屈で回しているという違いがあるかもしれませんが、出てくる音が合っていればそれで良しです!

 

もちろん、曲が終わった後には、落ち着いてチューニングし直すことも忘れずに・・。

弦の使用度合いを知る

 

弦が新しいか古いかによっても、チューニングの狂い方が変わってきます。

 

これはギタリストなら誰でも経験がある、新しい弦を張ったらしばらくチューニングが狂いやすいという現象ですね。

 

新しい弦は張ってもしばらくは安定せず、何もしなくても弦が伸びる方向に変化します。

 

伸びるということは、音は下がっていく方向になるということですね。

 

 

 

弾き込んでいくと狂いが少なくなってくるので、それが対処法といえばそうなのですが・・。

 

弦交換するタイミングは、ライブの前とか、録音の前とかが多いのが難しい所です。

 

本番では新しい弦を使って、少しでも良い響きで挑みたいですもんね。。

 

響きは良くても、チューニングが低い方向に狂いやすいことは頭の片隅に入れておかないといけません。

 

 

 

逆に、音質を気にしないから使い込んだ弦で挑むのもありかと言うと、それはまた別の問題が出てきます。

 

経験上、古くなってきた弦は音痴になっていくためです。

 

これは、開放弦できちんとチューニングしても、押弦すると若干合ってないと感じる部分が増えてくるというイメージです。

 

新しい弦の「伸び」は弾いてれば解消されますが、古い弦の「音痴」は悪くなる方向にしか行きません。。

 

何にせよ、ここまで来たら弦を交換しないとダメですね。

 

 

 

それ以上に、古い弦は切れるリスクが高いのがネックです。

 

本番で弦が切れるなんて、想像しただけでも怖いですね・・。

 

練習の時ですら、弦が切れるのは心臓に悪いですし、同じプレイをしたらまた切れるんじゃないかと、しばらくトラウマになったりします。。

 

とにかく、弦の状態を把握しておき、本番の日程を見据えた適切なタイミングで交換する必要がありそうです。

 

 

 

以上、"彼を知り己を知れば百戦あやうからず(チューニング編)"でした。

 

チューニングは弾く前に必ずやっている作業にも関わらず、人前だと合わせるのにやけに時間が掛かったりするものです。

 

しかし今回のようにギターを取り巻く状況を把握することで、少しでも不確定要素をなくすことができるのではないでしょうか。

 

 

 

ブログタイトルに(チューニング編)なんて書きながら、実は他を書く予定は今の所なく、風呂敷だけ広げてるんですが・・チューニング以外でも"彼を知り己を知る"ことが大事なのは間違いありません。。

 

戦い(ギター)の天才は、色んなことを感覚でやるのかもしれませんが、(私を含めた)そうでない人は、情報や理屈でその穴を埋めていくのが定石ではないかと思います。

 

またチューニング以外にも書けそうなことが見つかったら、ブログに残したいと思います。

 

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

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