車の乗り心地を良くするにはボディを頑丈にすればいいが、頑丈にしすぎると重くなって加速や燃費が悪くなる・・こんな感じの、両立できない関係をトレードオフと言ったりします。ギター関連でもこのトレードオフが沢山見られますが、良く考えると両立できそうな関係もありそうです。今回はハードウェア関係のトレードオフを探ってみたいと思います。
コスパと音
ギター関連のトレードオフでまず思い浮かんだのが、ギターの値段と音の関係です。
一般的には、高いギターほど良い音がすると思われていることが多いです。
つまり、コストパフォーマンスと良い音はトレードオフの関係ということですが、本当にそうなのでしょうか?
もちろん、ギターの種類や演奏する音楽、個人の好みなどによって良い音の基準は違いますし、音の良さをどう評価するかという話もあるかと思いますが・・少し問題を単純にして考えてみます。
まず、10万円のアコギが5万円のアコギの2倍良い音がするかというと・・感覚的に違う気がしますね。
10万円のアコギの方が、良い音だと言う人の数が、少し多くなるくらいの感じでしょうか。
それでは、100万円のアコギと50万円のアコギはどちらが良い音がするでしょうか?
そんな高価なギターはちょっと試奏したことがある程度ですが、大体は音の(個性ではなく)良さにはあまり違いはないと思います。
100万円のアコギは、50万円のアコギをベースに豪華な装飾がたくさん施されており、その影響で値段が上がっているだけかもしれません。
さらに、1000万円のアコギと500万円のアコギはどちらが良い音がするでしょうか?
これは音以前に、ビートルズのレコーディングに使われたとか、マーティンの最初期に作られたギターだとか、音以外の部分で値段のほとんどが決まってそうです。
そう考えると、数10万円くらいからは音の良さはほとんど上がらない(サチる)ということになりそうですね。
昔は安かろう悪かろうなギター(雑誌の裏に広告が載ってるようなやつ)がよくありました。
これらは楽器を始めるきっかけとしては良いかもしれませんが、すぐに壊れたり、音が合わなかったりします。
しかし、今は安価なギターのレベルも上がっている印象です。
結局何が言いたいのかというと、ギターのコスパと音の良さは、トレードオフ関係ではないということです。
値段を知ってから音を聴くと、どうしても上方にバイアスがかかってしまうので、両立できないという錯覚に陥ってる感じでしょうか・・。
この辺り、音だけ聴いて判断する格付けチェックのようなことをすると、面白いかもしれません。
でもまあ、ギターは音だけでなく、見た目や弾きやすさも重要ですよね・・。
となるとありきたりな結論ですが、予算の中で、もっとも自分が良いと思うギターを選ぶのが、正解ということになりそうです。
音の太さと弾きやすさ
太い弦を張ったら、太い音が出ると言われることがあります。
実際に、ブルースのスティーヴィー・レイ・ヴォーンやジャズのパット・マルティーノは極太のゲージを使っているらしく、めちゃくちゃ太い音を出しています。
ただ、一般に太い弦は細い弦よりも弾きにくくなってしまいます。
ということは、音の太さと弾きやすさは、トレードオフの関係ということになるのでしょうか?
私も、太いゲージ(といってもアコギで1弦が013、エレキで1弦が011とかですが)を張っていた時期があります。
じゃあそれで太い音が出せていたかというと・・そんなことはありませんでした。。
今思うと、太い弦をしっかり鳴らせるような弾き方ができてなかったと思いますし、押えるのやチョーキングするが大変で、中々うまく操れませんでした。
音以外にも、太い弦を張ったことによるテンションの増加で、ネックは曲がるし、アコギのトップが浮いてくる(ブリッジ部分だけ盛り上がったようになる)現象まで出てきました。
結局、太い音が出るからと思って太い弦を張っていて、良いことはあまりありませんでした(矯正ギプスのような効果はあったかもしれませんが・・)。
前述のレイ・ヴォーンのように、太い弦を張って太い音を出しているギタリストは、弦と音がセットで印象に残ります。
しかしよく考えると、それ以外の著名なギタリストの大多数は、別に太い弦を張っているわけではありません。
むしろ細い弦で、びっくりするような太い音を出しているギタリストもいます。
弦は実際に振動するものなので、形状と音がリンクしているように感じますが、結局はピッキングやギター、機材や録音方法などの様々な要素が合わさって、太い音が生まれると言えそうです。
まあ、音が太くなくても良いのでは?とか、そもそも太い音って何なん?みたいな話もありますが・・。
とにかく、音の太さと弾きやすさはトレードオフ関係ではなさそうです。
音色の多様さと簡便さ
ちょっとボキャブラリーがなくて、変な言葉のチョイスになってしまってますが・・音色の多様さと簡便さはトレードオフの関係のように思えます。
要は、エフェクターをたくさん繋いだりギターに特別な機材を付けると、様々な表現ができるようになりますが、増やせば増やすほどシステムが複雑になり、ノイズ等の弊害が出てくるということです。
逆に、ギターからアンプに直接つなぐとノイズは少なく取り回しも良いですが、音色としてはシンプルなものしか選択できません。
機材が多くなると怖いのが、トラブルが発生する確率が上がってくることです。
例えばアンプ直で弾くのと、エフェクター10個が間に入っている状態で弾くのでは、後者の方が音が出なくなったり音が制御できないといったトラブルが増えるのは、容易に想像がつきます。
さらに、トラブルが発生した状態から復旧するのも大変です。。
怪しいエフェクターを飛ばして接続して音を出す、ということを繰り返して、原因となったエフェクターを突き止めることはできます。
しかし、その原因究明だけでリハの時間が終わってしまったり、下手したら本番に予定していた曲が演奏できないなんてことも起こり得ます・・。
機材が多いことのデメリットばかり書いてますが、機材でギターの表現の幅が広がるのは間違いありません。
ギター雑誌の機材紹介コーナーを見ると、どんなギタリストもエフェクターを始めとした沢山の機材を並べており、その必要性が分かります。
しかし、それはローディーと共に全国ツアーを回ってるようなギタリストの話なので、普通は安易に機材を増やすのはやめておいた方が良さそうですね。。
音色の多様さと簡便さは、間違いなくトレードオフの関係と言えそうです。
こだわりと入手のしやすさ
ギタリストなら誰しもが、自分だけのこだわりの逸品を使いたい、という気持ちがあると思います。
例えば、誰も持ってなさそうなボディカラーのギターとか、新品では買えない昔のエフェクターの名機・・とかです。
ギターを弾く人は、自分だけの音を出したいと思っていることが多いので、自然とそういった思考になるのかもしれません。
ギターのように長い間大事に使っていけるものなら良いですが、消耗品となると、そのこだわりと入手のしやすさの間でトレードオフが発生してきます。
例えば、普通の楽器店にはおいていない珍しい弦を愛用しているとか、特別な形のべっ甲のピックを愛用している・・といった場合です。
弦はいずれ寿命が来ますし、ピックもいつかは先端が減ってきて使えなくなるので、交換しないといけません。
しかし、それを扱っているお店やメーカーがなくなってしまったら、もう二度と手に入れることができなくなってしまいます。
逆に、どこの楽器店やネットでも売っているようなものなら、誰かと被るかもしれませんが、入手するのは容易です
本番前に弦が切れたので至急手に入れないとけない!なんて時でも、すぐに調達することができるかもしれません(予備を用意しておくのが無難ですが)。
こだわりすぎても融通が利かなくなり、こだわらなさすぎても面白くない・・。
多くのギタリストが、この間で絶妙にバランスを取りながら、日々試行錯誤しているのかもしれません。
以上、ギターのトレードオフ関係を考える【ハードウェア編】でした。
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